好きなスポーツ入り

 思いの外、東京オリンピックの競技を見た。定番のものから新競技まで。そのなかで一番印象に残っているのが、「サーフィン」だ。オリンピックのおかげで競技としてのサーフィンの見方があることを知った。
 
 育ちが山奥のせいか、小さい頃は海が大好きだった。車で出かける時には、いつも海の見える窓側に座って、飽きずに眺めていた。海から遠ざかり見えなくなっていくと、がっかりしたものだ。
 あくまでも、風景としての海は大好きだが、実際に泳ぐとなると、海は苦手だ。あまりの大きさに呑み込まれそうで怖くて、おまけに泳げず、波打ち際でパシャパシャするだけ。

 大学生の頃、サーファールックが流行っていた。おしゃれの仕方がわからず、田舎から出てきたばかりの私は、とりあえず流行っている格好を見よう見まねでしていた。しかし、お世辞にも似合って居るとは言えなかっただろう。
 同じサークルに属していたお嬢様学校に通う同級生が、颯爽と着こなすサーファールックは、それはそれはカッコ良かった。私のようなハリボテ感が全くなく自然に着こなしていた。彼女は、私のような格好だけサーファーもどきではなく、本物のサーファーだった。
 この時、「サーファー」とはお洒落でカッコ良くてキラキラと輝くまぶしい存在であること。そして、私のような田舎者が関与するような代物ではないことを知り、遠い存在のように思っていた。

 奇しくも、結婚してすぐに住み始めたのは、海沿いのマンションだった。近くには、サーフショップも有り、サーフィンの教室もやっていた。週末になると、いかにも「サーフィン、楽しんでいます」っていう人達が店先で談笑していた。私の対極にいる人達。足早にその前を通りすぎ、憧れと嫌悪感の入り交じった目で、見ていた。
「サーフィンしてる人達って、チャラチャラしてて、なんか怖い」
これが、オリンピックでサーフィンを見るまでの、サーファーやサーフィンの印象だった。
 
 本当にたまたま見たオリンピックのサーフィン競技。台風が近づいていて大きな波のうねりの中で、サーフボードの上に立ち上がり、波をのりこなしていく姿に、目が釘付けになった。
 『カッコいい、、、』
途中で失敗しても、何度もチャレンジする。どんなに体力を奪われることだろう。最後の最後まで諦めずに波を待ち続けていた。五十嵐カノア選手。初めて名前を知った。
 決勝で敗れた後、海の神様に祈りを捧げる彼の姿に、私が勝手に思い描いていた「サーファー」のチャラチャラしたイメージは、氷解した。

 スポーツとして戦う「サーフィン」。私の好きなスポーツになった。