母と野菜

 11月の連休に実家に帰っていた。父の百カ日の法要があるというので、母に会いがてら、とりあえず私だけ帰った。次男の期末テストが目前に迫っていたので、主人と次男は、お留守番だった。

 丸一日、なーんにもする事がなか
つた。主人や息子の世話をする必要もなく、仕事もなく、私の自由時間だけだ。背中が痛くなるほど寝て、テレビを見てウダウダしていたが、母は、なんやかんや動き回っている。いくら実家でも、周りが働いている中、一人テレビを見ていても何だか落ち着かない。

 母は、作物の収穫の時期がきており、お天気と相談しながら、段取りをしていた。畑で大根を採るというので、手伝うことにした。小さいころからお馴染みの場所の我が家の畑。祖母が耕し母が耕し、沢山の野菜を育て方てきた。きれいに手入れされたその畑は、一面緑の葉っぱで覆われている。
が、それが一体何の葉っぱなのか、情けないことに何にもわからない。野菜は食べること専門で、育てることには何の興味もなかった。

 教えられた畝に行って大根を抜く。思いの外簡単に抜けた。見るからにみずみずしく美味しそうだった。沢山あるうちの数本を抜き、次は泥を洗い流す作業だ。どこでその作業をするのかと思たら、畑のすぐ横に流れている小川で泥を落とすという。横と言ってもかなり急な斜面を下りていかなければならない。

 母は、いとも簡単に下りて行ったが、しっかり足を踏ん張らないと、滑り落ちそうだった。川の中にある石に片足を置いて、前屈みになって1本、1本洗っていく。ほんの数本洗っただけで腰が痛くなった。今度は、洗った大根を抱えて土手を上らないといけない。母は、この何倍もの数の大根を一人で洗って、抱えて、急な土手を上っているのだ。恐るべし80代。

 作りすぎた野菜を私や親戚、知り合いに配って喜んでもらうのが、今の母の生き甲斐らしい。

 改めて、「腐らせてはいけない」と、肝に命じた。