嬉しさ半分

半年ぶりにアルバイトのために、電車に乗った。いつもの電車より1本早めに乗った。

ちょうど登校時刻と重なり、ほとんどが学生だ。いつもの車両のいつもの場所に立った。座席に座っている人、私の周りに立っている人のほとんどが高校生だ。

見覚えのある制服は、アルバイト先と同じ駅にある高校だ。だから、この子たちは、ずっと座ったまま。

『今日は座れそうにないなぁ』

と半ばあきらめ、外の景色を眺めていると、斜め前に座っていた男子高校生が、突然立ち上がった。揺れる車内を大きなリュックを引きづりながら、ドアの方に移動して行った。

なんとラッキー!でも、その席のまん前には、同じく男子高校生が立っている。

『あなた、まさか座るつもりじゃないよね?』

とおばさんの無言の圧力を察知したのか、その少年は身体を後ろに引いた。それを見て私は斜め前から急いでその席に座った。

思いがけず早くに座れて、ほっとして辺りを眺めてみた。すると、さっきまでこの席に座っていた男子高校生は、人に押しつぶされそうにながらまだ乗っているではないか。

私は、てっきり次の駅で降りたものと思っていた。次、降りるから早めに席を立ったんじゃなかったの?

その時、やっと気づいた。彼は、私に席を譲るために、わざと早めに立ち上がったのだ。だって、彼の周りは同世代の高校生ばかりで、斜め前におばさんが一人立っていたんだから、席を譲るとしたらやはり「わたし」だろう。

それを、誰も争っていないのに我先にと座ってしまった自分が恥ずかしい。

結局、彼は、私が降りる1つ前の駅で降りた。ずっと、立っていた。

『勇気を振り絞って、それとなく席を譲ってくれたんだね。ありがとう』

電車を降りる彼の背中を見ながら、心の中でお礼を言った。

その日は、人生で初めて席を譲ってもらった記念日となった。60歳と2ヶ月。

もちろん嬉しかったが、何だか複雑な気分、、、