玉子焼き

 子供の頃、ちょっと焦げた玉子焼きが好きだった。だから、お弁当に入れる時にも、玉子焼きを作る母の横で、「もっと、もっと」とわざと焦がしてもらっていた。
 そんなお弁当を意気揚々と持って行ったある日のこと。いじめっこが、私から弁当箱を取りあげた。中のおかずを見ると、大きな声で叫びながら、学校の中を駆け回った。
「○子の弁当は、黒焦げの玉子焼き~!」
「それが好きだから、わざと焦がしたの!」
と言っても、その声は、他の子たちの笑い声やヤジにかきけされてしまった。
 私は、お弁当を作ってくれた母が笑われているようで、悔しくて悲しくて仕方がなかった。
『お母ちゃんは、わざと焦がしたのに…』
その日の玉子焼きの味は、覚えていない。
 今でも時々、お弁当のおかずに玉子焼きを作っていると、ほろ苦い思い出として蘇ってくる。