行列

 昼前に近所のスーパーに行くと、店の前に長蛇の列。??一体何事?
もしかして大安売り?と期待して店内に入るも、特に変わったことなし。
しばらくして、謎がとけた。このシーズン特有のイカナゴを求めての列なのだ。
 地方出身の私は、イカナゴくぎ煮の存在を知らなかった。瀬戸内海でとれるイカナゴの稚魚を醤油、ザラメ、しょうがなどと煮込んだ佃煮だ。外を歩いていて、どからとともなく、イカナゴを炊く甘辛い匂いが漂ってくると、もうすぐ春なんだなあって、季節を感じる。
 義母は、毎年何キロか炊いて、私の実家や親戚に配っていた。そのため、私も何度か店先にイカナゴを求めて並んだこともあった。
 その義母は、今年に入ってすぐに体調を崩して、なくなってしまった。もうイカナゴを買ってきてと頼まれることもない。
 頼まれて並んでいた時は、正直、面倒な気持ちがあったが、炊きたてのイカナゴくぎ煮を食べると、ごはんによくあってとても美味しく、義母に炊いてもらって良かったと思ったものだ。
 並んでいる方々をみると、圧倒的におばあちゃん世代が多いが、ちらほらおじいさんや私と同世代のおばさんも居る。自分で炊くのか、奥さんに頼まれたのか、それともお姑さんに頼まれたのかなあなんて、勝手に想像しながら、家路についた。
 「お母さん、イカナゴ買いにたくさん並んでいましたよ!」って、義母に報告しようとしたが、義母は写真の中で微笑んでいた。
 イカナゴくぎ煮は、今年は、我が家の食卓にのぼることはない。