それ、いらんけど…

抜けるような青空が広がり、雨の気配など微塵も感じられない昼下がり、主人が聞いてきた。

「今日、雨降るかな」

降るわけないだろうと思いながら、

「降らないんじゃない」

とつとめて優しく答えた。

 

3月末に会社を畳んだ際に、大量の荷物を自宅に運んだ主人。引っ越し当初は、主人の部屋はもちろん、リビングに廊下に、そこらじゅうがダンボールだらけになった。とりあえず居住空間を確保した後は、片付けはペースダウンした。

毎日、10kgずつ不用品を市のゴミ処理施設に運ぶのが日課になった。

10kgまでは無料で持ち込むことができ、1kgでもオーバーすると処分に費用がかかってしまう。最近では持っただけで10kgかだいたいわかるようになったと、得意げに言う。

そして今日も、ダンボールを開けて不用品の選別をしていたらしい。私にすれば全部不用品だろと思うが…

 

「ベランダで本を虫干ししているから」と主人。それでお天気を気にしていたんだね。その後、

「ママが、昔使っていた料理の本が出てきた。分厚い辞書みたいなやつ。捨てるのもったいないから、干してる。」と。

新婚の頃、使っていた本だ。たしかに辞書みたいに分厚く、「お料理ABC」とかいうの。

そうかそう言う事だったんだ。

なんでこの良い天気にわざわざ雨が降るのか聞いてきたのかと思ったら。

なんと遠回しな恩着せ。確かに懐かしいけど、場所もとるし、そんな分厚い料理本見ながら料理出来ないし、ましてやこれでも主婦歴35年。今更「料理のABC」とか言われても。私としては処分しても全然構わない。いや、むしろ処分したい。

「詳しく書いてあるよ。」

『それじゃあ、パパが勉強したら。』

とは、心の声。

今では料理でわからないことは、スマホ一つでほとんど解決してしまう。おそらくその分厚い「お料理ABC」の本に書いてあることも。

 

それは実用書というよりも新婚時代の思い出の品として、また、我が家のどこかに鎮座することになるんだろうなあ。

わざわざ虫干しされたその本は、いかに私の本であっても、到底捨てることなど出来ない。