天罰

 前にパーマをかけたのがいつだったか、思い出せないぐらい久しぶりに髪全体にパーマをかけた。

 ここ数年は、伸ばし放題で後ろに髪を束ねていた。頭頂部には、ちらほら白髪も見え隠れしている。ひっつめ髪は、生活感満載だから、ふわっとした上品な感じ、マダムらしくイメチェンしようと思い立った。

 お金が無いからと言って、身なりに構わなかったら、ますます貧乏くさくなりそうだし。

 行きつけ(年に二度ほどだけど)の電車で一駅の激安美容院を目指して出発した。
 駅の近くでノボリをたて机を置いて何やらチラシを配っていた。こんなとき、大抵私は、話しかけられる。配っていたのは、国境なき医師団によるアフリカの子ども達への食料支援のお願いのビラだった。

 偶然にも、美容院に出かける前、たまたまテレビでそのCMを見ていた。ちょっとした善意で多くの子ども達を救えるというその呼び掛けに、
『この子達に比べたら、自分はまだまだ恵まれているなぁ。助けてあげたいけどどうやって?調べてこちらから連絡とってまでは、無理だわ。』
って思っていたところだった。

 当然、目が釘付けになってしまった。そんな私をビラを配っているお姉さんは、見逃さなかった。私に近寄りビラを渡すと、国境なき医師団の活動とアフリカの子ども達の現状を説明しだした。
「毎月数千円の援助でどんなに助かるか、手続きは、今すぐ出来ます。」
と。確かに助けてあげたいと、思っているし。立派な素晴らしい活動だと思うし。でも、今の私にはその数千円が惜しい。何とかこの場から立ち去ろうと必死だった。
「すみません。自分自信の生活が大変なんです。』
「ヤバいんですか?」
「はい、やばいんです。ごめんなさい。」
そんな会話をして、そそくさとその場から立ち去った。

 まるで天罰でも当たったかのように、上品なマダムとはほど遠い、制御不能なボサボサ頭になった私は、帰路を急いだ。また、あの場所を通らなければいけない。もう居ないことを祈ったが、まだあのお姉さんは居た。
 丁度、親子連れに話をしていたので、これ幸いと逃げるようにしてその前を通り過ぎた。
『あんた、お金がないとか言って、しっかりパーマなんかかけているやん。しかもそんなへんてこりんな頭にするくらいなら、アフリカの子ども達のために、寄付したら良かったのに。』
後ろからそう聞こえてきたような気がした。