封筒

 伯父の葬儀に参列するために、久しぶりに田舎に帰った時のこと。
 いつもは、車で家族と一緒に帰省していたが、その時は、私一人、電車とバスを乗り継ぎ、最寄りのバス停に降り立った。
 父が軽トラで迎えに来てくれていた。ヒールにブランドバックを持って、軽トラに乗り込む。軽トラにゴトゴトと揺られながら、現実を思い知らされていた。

 父は、もう昔の父ではない。
 商売に失敗し、多額の借金を背負い、財産らしいものは全て失った。普通の乗用車に乗る余裕もなく、田舎生活での必需品の軽トラに乗り、細々と暮らしている。
 
 遠く離れた地で、しかも私自身の生活もままならない身では、何も助けてあげることも出来ない。実家の窮状を知りながらも、それに向き合うことを避けてきた。現実を受け入れたくなかった。

 昔の父は、常に自信に満ちあふれていた。何が起こっても、父はそれを解決し、私を、家族を守ってくれるような気がしていた。子煩悩で、いっぱい注いでもらった愛情。時には煩わしく思うこともあったけど。
 
 軽トラを運転する父の横に座り、懐かしい田舎の風景を見ながら、自分自身が情けなくて涙がこぼれそうになった。
『ごめんね、力になれなくて』

 数々の修羅場を経験したであろう父を労い、慰めることが出来なかった。
娘には、まだまだ良い格好したいだろうし、私の中では、まだまだ父は、スーパーマンだった。

 葬儀を終えて、バス停まで送ってもらった。軽トラから降りようとした時、父が私に封筒を差し出した。
「少しだけど、持って行け」
娘の生活苦を察してのことらしい。

 バス停でバスを待っている間に、そっと封筒の中身を出して見た。くしゃくしゃの千円札が10枚。

 その父も亡くなった。

 封筒に入ったそのお金は、使えない。今も大事にしまっている。