「孫チャンネル」見てね。

 スティホームのゴールデンウィーク前。オンライン帰省の手段として、「孫チャンネル」をテレビで紹介していた。「孫チャンネル」とは、パパやママがスマホで写した写真や動画をそのまま、実家のテレビでおじいちゃん、おばあちゃんが見ることができるという、夢のような機械だ。

 私の両親も80歳を超え、毎日、孫や子どもの心配をしながら、テレビを見て過ごしている。ゴールデンウィークは、もちろん、もしかしたら、お盆も帰れないかもしれない今年の状況を考えると、これは良いかも。
 テレビの前に座って、背中を丸めながらリモコンを操作している父の姿を容易に想像する事ができた。きっと喜んでくれるにちがいない。そう確信した私は、早速、注文することにした。

 ネットで調べてみると、思った以上に良かった。何よりも設置がすごく簡単そうだ。本体とテレビを、コード1本で繋ぐだけで良いという。「間違い用のない簡単さ!」と書いてある。しかもちょうど母の日セールで5000円値引きしてくれるという。山間部にある実家だが、携帯がつながるところだと大丈夫だという。テレビは、よほど古いテレビでないかぎり、コードは接続できるらしい。母は、よく「家のテレビは古い古い」と、言っていたが、リモコンもあるし帰省した時に見た感じ、そんなに古さは感じなかった。「きっと大丈夫、使える!」と自分に言い聞かせた。

 初期設定は、こちらでやらないといけないというので、一旦、我が家に送ってもらって、初期設定をしてから、実家に送ることにした。

 4月末に発注して我が家に届いたのが、5/7だった。
 おそるおそる初期設定をしたが、意外と簡単だった。とりあえず、スマホに保存してある写真を「孫チャンネル」に送信してみる。大きなテレビの画面に、写真が映し出された。思わず、感動。次々に送信してみた。最近の写真だけでなく3,4年前のものも送信。すると、ちゃんと時系列に整理されるし、写真に簡単にコメントも書くことができる。帰省をした時に、両親と写したもの、両親がこちらに遊びにきたときに写したもの、スマホに入ったままの写真が、次々にテレビに映しだされる。
 それら1枚1枚に、コメントを書いていく。両親の喜ぶ顔が、目にうかんだ。「孫チャンネル」というより「ジジババチャンネル」というぐらい両親の写真でいっぱいになった。そして、娘である私の暮らしぶりを垣間見ることができる写真も入れた。「娘は、幸せに暮らしているよー」という、メッセージとして。

 私も主人も、「孫チャンネル」に魅せられていて、しばらく遊んでいたかった。あれも、これもと「孫チャンネル」に送信しては、テレビで見て喜んでいた。
 本当は、5/9日が、父の誕生日だから誕生日プレゼントにちょうど良いから、初期設定をしたらすぐに送ろうと思っていた。だけど、あまりの楽しさに、1週間ほど遊んで、たっぷり写真を入れてから送ることにした。

 何度も何度も見ているうちに、なんとなく早く両親の元に送り届けないといけないような気がしてきた。結局、5/12に「孫チャンネル」を実家に送り届けた。同居している兄にも、設置のサポートの連絡をした。

 私の宣伝がすぎたのか、両親は、それはそれは楽しみにしていた。母は、テレビの古さを心配していたが、私は山間部という地理的環境を危惧していた。
 そして翌日、「孫チャンネル」は、無事実家に到着した。兄は仕事のため留守で、かわりに兄嫁が設置してくれていると、母から電話があった。父が、あんなに簡単な取り付け作業が、全くできないということに、驚き狼狽した。とにかく、兄嫁なら簡単に設置できるだろうから、私もわくわくしながら待っていた。
 しばらくして、なんとコードの挿し込み口がテレビのものと合わないから繋げないと、連絡があった。な、なんと実家のテレビは、「よほど古いテレビ」だったのだ。仕方なく、兄の部屋の小さいけど新しいテレビに繋げてみることに。すると、無事、作動して、私が前もって入れておいた写真を見ることが出来た。私のスマホに「ご実家が孫チャンネルを見ています」と連絡がきた。早速、動画を自撮りして、メッセージを送信してみる。
 兄嫁から、ラインで、「お母さん、喜んで見ています」と、連絡が、はいった。『あれ、お父さんは?』と思っていたら、「お父さんは、何度呼んでも来ません、」と、またラインで連絡があった。
 結局、父は、狭い兄の部屋で小さなテレビで見るのがイヤなようで、見ようとしないようだ。
 父に、真っ先に見てもらいたかった私は、少しがっかりしたが、居間のテレビさえ買い替えれば、見ることができるから良しとしよう。
 
 そして、5/17に母は、兄夫婦と一緒に父のためにテレビを買いに行った。
もともと、買い替えようと思っていたからと、母は言ったが、私のせいで、余計なお金を使わせてしまい申し訳なかった。
 年金暮らしの両親だが、コロナの給付金を使っておよそ10万円の大きなテレビを、老夫婦の今後の楽しみのために、買った。しかし、すぐに設置というわけではなく、なんと実家に設置されるのは、5/28になるという。なんとも、もどかしい。父が、「孫チャンネル」を見る日が、また遠のいた。せっかく急いで送ったのに。ちゃんとテレビを、確認してから送れば良かったと、少し後悔している。私が直接見れるわけではないが、新しいテレビが実家に来る日を楽しみにしている。
「じいちゃん、しょっちゅう孫チャンネル見とるよ」という、母からの報告を早く聞きたい。

 5/19の朝。兄から珍しく連絡があった。
「じいじ、今朝、倒れた」
私の何だかわからない不安が、的中してしまった。早朝、身支度を整えたあと、「孫チャンネル」を枕にして、倒れていたそうだ。