決断から30年

私の人生で最大の「迷い」と「決断」は、主人との結婚を決めた時だ。
好きな人と結婚するのに、何をそう迷うことがあろうか。と今なら言えるかもしれないが、今から30年前、私は、迷いに迷った。

当時、私は北陸の小さな町で小学校の教師をしていた。大学4年から受け始めた採用試験は、3度めの正直でやっと合格し、教師として勤めはじめてまだ1年目だった。
両親からすれば、やっと実家に戻り、安定した職に就き、将来的には近くに嫁いだら、万々歳。今までの苦労のかいもあったというところだっただろう。
それが、1年もたたずに、「結婚したい。だから学校も辞めます」と言われても、素直に「わかった、おめでとう」とはならないのも当然だったと思う。


大学を卒業後、私は、一旦地元に帰り小学校などで産休補助教員として働いていた。そんな時、大学時代の恩師から1年間だけ学ぶ教育過程が出来たから、またこちらで学ばないかとお誘いを受けた。

臨時採用とはいえ、小学校教員として働き始め、自分の力不足を痛感していた私は、「渡りに船」と言わんばかりに採用試験勉強に専念したいと両親に頼みこみ、大学に戻った。

教員採用試験は、各都道府県ごとに実施され、どこも7月の下旬頃にあった。4月からの3ヵ月間は、再度、資金を出してくれた両親の期待に応えるため、何よりも小さい頃からの夢であった「小学校の先生」になるために、人生で一番勉強した。

主人との出会いは、採用試験も終わったその年の秋だった。卒業まで塾でアルバイトをしようと思って、応募した塾の採用担当者(面接者)が、主人だった。

その年の秋、猛勉強のかいがあって、私は地元とそして大学のある都道府県のどちらも採用試験の合格通知を手にした。合格を知らせた時の母の嬉しそうな声は、今でも覚えている。これで少しは、親孝行出来たかな。と私も安堵はしたが、手放しでは喜べなかった。

時期を同じくして、私たちは付き合い始めていた。親しさが増すにつれ、私の心は揺れた。両親とは、1年間の約束で出てきている。採用試験の結果にかかわらず、地元に戻るつもりでいた。

「このまま、こちらで就職したい、実は好きな人がいる」
と伝えた時、今まで何でも私の味方になっていた父は、烈火の如く怒り出した。
「今すぐ戻ってこい!」

とは言うものの、生活の基盤はこちらにあったので、そのまま反対を押しきって、こちらで就職しようと思えば出来た。私は、迷った。悩んだ。地元の採用試験に落ちていたら、両親もこちらで就職することを許してくれたと思う。でも、地元で合格しているのに、こちらで就職するという選択は、両親にはあり得なかった。

そこで両親の反対を押しきってまで、こちらで就職する勇気は、その時の私には、なかった。主人ともその後、結婚するという確証もなかったし、まだまだ主人に対する気持ちも揺れていた。一旦、主人とも距離をおき、地元に戻り、自分の気持ちを整理してみることにした。

せっかく手に入れた「合格」だったが、主人と過ごした土地での「小学校の先生」の夢を、辞退した。辞退する旨の葉書を主人と一緒に投函した。30年経ってもその時の光景は、脳裏に焼き付いている。
『もう、後戻りできない❗田舎に帰ったら、もしかしたら、別れることになるかも』
そんなことをチラッと思ったりした。

地元に帰ったことで、両親は、私が主人との結婚を諦めたと、思ったようだ。実際、何人かとお見合いもしていた。もちろん、そのことは、主人にも伝えていたし、両親を安心させるためのカモフラージュだった。でも、主人より良い人が現れたら、わからなかったかも。お見合いは、やっぱり主人が一番!と、自分に言い聞かせるための確認作業のようだった。

田舎に帰って1年。何人かとお見合いもしながら、仕事にもだんだん慣れてきて、ともすれば、このままのんびりと、生まれ育ったこの土地で暮らすのも良いかなぁと思うこともあった。

平穏に過ぎている日常に波風を立てるのには、相当なエネルギーを必要とした。

平穏な日々は、容易に未来の自分の生活を想像させた。安心だけど、何もワクワクしない。そんな人生は、つまらない。主人との結婚は、一緒に人生をワクワクしながら送れるんじゃないか、私の知らない世界を見させてくれるような気がした。

平穏、普通ということがどれだけありがたいことなのか、全く苦労知らずのノー天気な当時の私。

そして、ついに私は自分の意思を押し通して、およそ30年前の6月5日に、主人と結婚した。


30年の歳月が流れ、果たしてあの時の私の決断は、正しかったのか?

予想通り、主人と歩んできた30年は、平穏な日々ばかりではなかった。金銭面では、今が一番大変だろう。

でも、結婚したことに後悔は、ない。今だにワクワクもハラハラもさせられる。30年経っても、お互いずっと大事に思っているし、精神的な大きな支えとなっている。お金はあまりもらっていないけど、愛情はいまだにたっぷりもらっている。

大騒ぎして自分で決断した結婚。富める時も貧しい時も、健やかなる時も病める時も、私は、主人を支えていくと、決心して30年。神が二人を別つまで、その思いはたぶん変わらない、、、と思う。

#「迷い」と「決断」

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