ママの匂い

やたらと匂いにこだわる次男。
先日、一緒にドラッグストアーに行ったときに、
「これ買ってくれ」
と差し出したのは、部屋と人の消臭スプレーだ。よくCM は目にするが、その必要性を全く感じていない私。次男のおねだりも却下しようと思ったが、一応お年頃だし、そんなものかと思い買った。
それからと言うもの、自分の部屋は勿論、リビングや廊下にシュッシュッしまくり、甘い匂いが立ちこめている。
今まで人工的な匂いの中で生活してきていないため、かなり違和感を感じてしまう。

自分では、自分の匂いなんて感じないが、やはりみんな自分の匂いを纏っているはずだ。しかし、もう慣れてしまっているのか、主人からはなんの匂いも感じない。まさに無臭だ。次男からも特に感じない。

私にも匂いがあるらしく、次男は私とすれ違うときにはクンクンと、鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ。そして、
「あー、良い匂い」
または
「汗くさ!」
と言う。思春期真っ只中の息子から、匂いを嗅がれて、「良い匂い」と、うっとり言われても、何だか心配になる。むしろ、「臭い」と言われると安心したりする。
なんか癒しを求めているのか、気持ちが不安定なのかと、いろいろ心配してしまう。

息子が小さかった頃、いつも胸に抱き抱えて寝ていたっけ。息子からすると、その時の匂いと抱きしめられていた安心感が、記憶の奥底にあるのかもしれない。

私も小さい時、母に抱かれて眠っていたときの母の匂いを覚えている。母のいない夜、一人で布団に入った時、母の寝間着を抱き抱えて、匂いを嗅ぎながら眠っていたっけ。

消臭スプレーや芳香剤、アロマなど、世間には、「匂い」ビジネスが溢れている。それだけ、「匂い」を必要としている人がいるということだろう。

学校に行く前、玄関で見送る私に、消臭スプレーを手渡す息子。全身にシュッシュッすると、
「行ってきまーす」
と急いで家から飛び出す。
一昔前なら「火打ち石」で見送るところだろうが、時代は変わった。